エコロジカル・サニテーション 概要
エコロジカル・サニテーションとは
生態学的アプローチを基礎に人間のし尿を有用な資源として再利用することを指します。
- し尿=排泄物という考え方から、し尿=資源の考えに戻り資源循環型社会を目指す必要がある。
- 浄化した人間のし尿を土壌に戻すことで自然の循環を繰り返す。
- 環境を汚染することなく、人間のし尿は土壌の改良や植物の栄養素の補給に利用する。
エコロジカル・サニテーションの実行により、水洗トイレの節水と水質汚染の軽減によって水資源を保存でき、さらには地球温暖化対策の一助ともなることができます。
世界における現状
世界の現状を認識すると、世界においては、水洗-放流システムは完璧な衛生システムではないと言える。
水洗-放流システムシステムの問題点
- 少量の糞便などが大量の清らかな水を汚している。
- 処理施設において一定水準の処理が行われたとしても、混合物から水を分離しているだけであり、病原体を許容可能なレベルまで破壊することは可能であるが、窒素、リンの除去が不十分なため、富栄養化問題が起こっている。
- 途上国の90%以上は下水を未処理のまま河川、海へ放流している。
- 現在多くの途上国では、設備的、技術的な能力、水資源、資金が必要なため、処理施設の建設は適用可能ではない。
解決策の提案
バイオトイレ「バイオR21」はエコサンによる資源循環型社会を実現するひとつの解決手段になりえます。
循環型社会実現例
植物が元気に育つ上で三大栄養素とも呼べる窒素、リン酸、カリウムの3つの大切な成分があります。
- 窒素:あらゆる植物の生長に必要な成分
- リン酸:とくに花や実を大きく育てるのに必要な成分
- カリウム:根の生長と茎の成長に必要な成分
この三大元素が植物が生長する上でもっとも必要になる成分であり、尿にはこの三大要素が含まれています。人間の排泄物に関する肥料価値のうち90%は尿に含まれており、純粋に尿の形で処理することが衛生対策として重要です。
弊社では、し尿分離ができるセパレート便器とシステム、し尿から有価物を連続的に回収する尿内有価物分離装置を大学及び専門研究機関と共同開発し、それぞれにおいて特許を有しています。
セパレート便器重量センサーシステム(JSS)・し尿分離システム(SBS)
尿内有価物分離装置
衛生管理された人間の廃棄物を土壌に戻すことは土壌を肥沃にさせ、植物の生長を促進することで、植物の光合成を促し大気中の二酸化炭素の総量を引き下げることができます。エコサンにより世界規模での循環型社会の実現が可能になるのです。
エコサンによるメリット
エコサンは、環境だけでなく地方自治体においてもメリットをもたらします。
環境への利点
- 地下水、小川、湖、海を大便の汚染から守ることができ、水の消費がより少なくなる。
- 温室効果ガス減少の有力な手段となり得る。
地方自治体の利点
- 各家庭やその近隣に水を供給することの困難さを実感した世界中の地方自治体であっても、エコサン型のシステムにより、莫大な費用を用意しなくても下水処理システムの拡張の代替手段を得ることができる。
- 排泄物を肥料として利用できることで、高価な商業肥料を買うことが少なくてすむ。
エコロジカルサニテーション 理論編
し尿を資源として活用することは 古代よりの自然循環の流れに沿った地球に最もやさしいシステムです。
1. 原理
衛生対策とは、社会の平等性や社会の持続性を可能にする決定因子である。衛生対策への新しい挑戦がなされなければ、私たちは次世代へ問題を残さずに現世代の要求を満たすことができないであろう。それゆえに衛生対策というものは廃棄物を取り扱う考えではなく、資源を取り扱う考えなのである。
従来の排泄物を処分するという考え方から、廃棄物を出さず再利用するという考え方に変えていかなければならない。また、このことを実行することは大切な水資源を保存することにもつながるのである。
2. 排泄物の衛生対策
人間の排泄物は、微生物やその卵、その他様々な生物を含んでいる。生物の中には病気を引き起こすものもいて病原体と呼ばれている。また、人間に寄生しているものもいる(寄生虫)。これらの生物のほとんどが糞便中に発見されている。尿は一般に無菌である。
新鮮な人間の糞便中にはバクテリア・ウイルス・原生動物・蠕虫(腸内寄生虫)といった四つの主な生物のグループがある。これらの生物は排出されたあと、すぐ感染するもの・感染までにある期間を要するもの・感染するまでに媒介としての宿主を必要としたりするものに分けられる。
汚染された環境は人間を感染症や病気を引き起こす病原体という危険にさらす。
3. 病原体を死滅させる方法
病原体死滅速度を速める環境条件
環境因子 | 方法 |
---|---|
温度 | 上げる |
湿度 | 下げる |
栄養分量(有機物) | 下げる |
微生物量(他の病原体を含む) | 下げる |
日光量 | 上げる |
pH | 上げる |
上述した環境条件の一つ一つは、病原体が生存するのに適したいくらかの幅を持つ。自然変化や人為的によって条件が変化すれば、病原体の死滅速度も変化する。例えば、温度が上昇すれば病原体の死滅速度も増加する。土壌中で糞便性大腸菌が99%死滅するのに、夏場は約2週間、冬場は約3週間かかる。温度が60℃以上になると、糞便中のほとんどの病原体はすぐに死滅する。温度が50℃から60℃の範囲においては、バクテリアは成長することができず数分で死滅する。ほとんどの病原体は30分以内で死滅する。
様々な処分、処理法における病原体の生存時間(日)
環境 | バクテリア | ウイルス | 原生動物(1) | 蠕虫(2) |
---|---|---|---|---|
土壌中 | 400 | 175 | 10 | 数ヶ月 |
穀物中 | 50 | 60 | 不明 | 不明 |
し尿、汚泥中 (20℃〜30℃) |
90 | 100 | 30 | 数ヶ月 |
堆肥化中 (嫌気性状態) |
60 | 60 | 30 | 数ヶ月 |
高温堆肥化中 (数日間 50〜60℃) |
7 | 7 | 7 | 7 |
廃水安定化池 (20日以上) |
20 | 20 | 20 | 20 |
(1) クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)は含まれない。
(2) 主に回虫、その他の寄生虫の卵は比較的に早く死滅する。
原生動物から排出されたクリプトスポリジウムの接合子は、非常に強い抵抗性を示す。それらは回虫以上に環境のストレス(寒さ・高温・塩素やオゾンを用いた水処理)に耐えると考えられている。しかし、脱水化であればクリプトスポリジウムを死滅させることができる。実験によると2時間乾燥させたら97%のクリプトスポリジウムの結合子が死滅し、4時間ですべてが死滅した。
4. 尿
人間の排泄物中の植物栄養素のほとんどは尿中に発見されている。成人一人当たり年間で約400Lの尿を排出し、それには4.0kgの窒素、0.4kgのリン、0.9kgのカリウムが含まれている。面白いことにこれらの栄養素は植物に吸収されやすい理想的な状態で存在する(窒素は尿素の形で、リンは過リン酸塩の形で、カリウムはイオンの形で)。尿中の栄養素のバランスは化学肥料のバランスと比べて充分に適している。
1年間一人の人間によって排出される400~500Lの尿は、1年間一人を充分養える250kgの穀物を育成するのに充分な植物性養分を含んでいる。化学肥料と比べて重金属の混入が極めて少ないというのも尿を利用した肥料の利点の一つである。
尿中の窒素(尿素)のほとんどが回収や保存の過程でアンモニアへと分解する。しかし、換気を制限した密閉型のコンテナで保存すれば、アンモニアの減少は最小限に抑えられる。
人間の尿は家庭で肥料として利用できるし、また地域レベルで商業的に農業に用いる肥料として利用することもできる。尿は土に直接撒くとき希釈する必要はないが、植物に直接撒くときは植物を枯らさないために2~5倍に水で希釈する必要がある。肥料としての尿の価値に気づくまでは、尿は蒸発などによって処理されていた。
5. 糞便
人間の糞便は主に消化されずに残った有機物、例えば食物繊維などを含む。一人1年当たりの糞便の量は25~50kgで、0.55kgの窒素、0.18kgのリン、0.37kgのカリウムを含む。栄養素の含有量は尿より少ないが、それらは非常によい土壌改良剤である。脱水化や分解により病原体が死滅されてできた無害の有機物は、土壌の有機物量・保水能力・栄養濃度などを高めるために利用される。
分解の過程によってできた腐植土は、植物を土壌の病原体から守る有用な土壌生物の健全な数を維持するのも助ける。
尿と大便の栄養素比較
尿 | 大便 | 計 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
g/人/日 | % | g/人/日 | % | g/人/日 | % | |
湿重量 | 1200 | 90 | 140 | 10 | 1400 | 100 |
乾重量 | 60 | 63 | 35 | 37 | 95 | 100 |
窒素 | 11 | 88 | 1.5 | 12 | 12.5 | 100 |
リン | 1 | 67 | 0.5 | 33 | 1.5 | 100 |
カリウム | 2.5 | 71 | 1.5 | 29 | 3.5 | 100 |
6. 環境への利点
大規模な再循環は、温室効果を減少させることになる。人間のし尿の再循環は、土壌の炭素含有量を増加させるために、広範囲に渡るプログラムの一環として大規模に実行されれば、温室効果を減少させるのに役立てることができる。
二酸化炭素(CO2)の大気中濃度の増加は、気候の変化を起こすと考えられており、この現象に対する大部分の努力はCO2を増加させる化石燃料の燃焼や、熱帯雨林の消失からのCO2の放出の減少に集中している。
しかしながら最近、科学者は過剰な大気中の炭素を吸収する役割を持つ土壌の能力に注意を向け始めた(土壌中では、炭素は腐葉土や腐敗する有機物の形で蓄えられる)。多くの因子が、土壌中の炭素の蓄積に影響を及ぼす。
衛生処理された人間の排泄物を大地に戻すことは、土壌を肥沃にさせ、植物の成長を促進させるというプロセスにおいて重要な役割を演じ、その結果、光合成を通して大気中のCO2の総量を引き下げる。
森林外の土壌における炭素総量の2倍弱は、100年にわたる現時の低レベル1%(浸食の結果として)から2%にあたり、これはその期間にわたる大気中炭素の正味の年度増加と釣り合っている。
引用文献
『エコロジカル サニテーション』(非売品)
- 2001年1月19日発行
- 著者
Steven A Esrey, Jean Gough, Dave Rapaport,Ron Sawyer, Mayling Simpson-Hebert, Jorge Vargas, Uno Winblad(ed) - 発行元
Sida(Swedish International Development Cooperation Agency:Stockholm) - 監訳
松井三郎(京都大学大学院 地球環境学堂) - 発行
NPO法人 日本トイレ研究所
〒105-0001
東京都港区虎ノ門1-11-7 第二文成ビル3F
TEL 03-3580-7487
FAX 03-3580-7176
『都市水管理の先端分野 行きづまりか希望か』
- 発行年月: 2003年06月
価格: 7,770円(税込)
Amazonで購入する - 著者/翻訳
Edo Maksimovi /(編)
Jose Alberto, Tejada‐Guibert /(編)
京都大学大学院 地球環境学堂 教授 松井三郎 監訳・著
京都大学大学院 工学研究科 環境質制御研究センター 助教授 清水芳久
京都大学大学院 地球環境学堂 助教授 松田知成 他訳
京都大学大学院 地球環境学堂 助手 内海秀樹 - 出版
技報堂出版
〒102-0075
東京都千代田区三番町8-7 第25興和ビル
TEL 03-5215-3165
FAX 03-5215-3233
バイオR21&オプションシステムでエコサントイレへ
現在、日本の下水道普及率は70%を超え、都市部では95%以上に達しています。人口が集中する都市部だけでなく、農村部や山村まで下水道の普及率が高いことが、衛生的に高い評価を受ける状況になっています。
し尿は資源だったのに・・・・
その昔わが国では、し尿は処理しなくとも貴重な肥料として利用する文化が根付いていました。江戸時代の中期にはし尿のリサイクルシステムが完成しており、郊外の農家から町の長屋や武家屋敷に、し尿を買い取りにきていたのです。しかし、昭和に入り、農業よりも工業が発展し、次第に農村から都市に人口が集中してくると、し尿の供給がだぶつき始め、都市部ではし尿の浄化や海洋投入処分をせざるを得なくなりました。そして、昭和20年代半ばになると化学肥料が大量に利用されるようになったため、し尿の需要は更に低下しました。これに拍車をかけたのが、連合軍総司令部(GHQ)指導で昭和25年に作成された、いわゆる「し尿の直接農地散布禁止令」です。その結果、町中にし尿が溢れ、あらゆるところに不法投棄されたことで伝染病が大流行しました。かくして都市部には超大規模なし尿浄化槽が造られ、発生するし尿の処理が始まって現在に至っています。農村部など肥料として還元可能な地域でも、住民は高額の負担をして下水道や合併浄化槽を利用し、大量の浄水でし尿を流しています。
衛生面の問題が解決できれば、し尿の資源化は環境や住民への負荷が少ない理想的な方法と言えます。
エコロジカルサニテーション
海外に目を向けると、大便と小便を分離回収してそれぞれに土壌改良剤や液肥として有効利用するという 「エコロジカルサニテーション」の思想が広がっています。
廃棄有機物微生物処理機「バイオR21」はオプション(セパレート便器・JSS(重量センサーシステム)・SBS(し尿分離システム))との組み合わせで、処理槽を守りながら大便と小便を分離回収できるバイオトイレです。好気性バクテリアを初期投入して、し尿・生ゴミ・廃食油まで微生物処理できます。また、雨水手洗装置との併用で尿を全て回収したり、自然エネルギーを利用したハイブリットシステムで、発電した電気を蓄電して使用することもできます。
尿内有価物分離装置
尿内有価物分離装置は、国立研究開発法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業の研究成果であり、京都大学名誉教授松井三郎氏はじめ京都大学教授陣らにより開発され、特許を取得しています。弊社は、国立研究開発法人科学技術振興機構が所有する「尿内有価物分離装置」の特許(特許第4025244号)に対して特許権等実施契約書を締結し、これを使用する実施権を有しています。
この装置は、セパレート便器を使用したし尿分離トイレで、尿を分離回収することにより、病原性微生物による汚染問題を回避し、有価物の大部分を含む尿からリンや窒素を効率よく連続的に分離回収することができます。有価物(栄養素)を分離回収し、水分は環境に負荷の少ない水として処理できるようになります。